Shutaro Aoyama, Kiyoshi Suganuma, He Jiang, and Shunichi Kasahara
ACM CUI 2026 · Best Paper Award
Shutaro Aoyama、Kiyoshi Suganuma、日本科学未来館との共同研究です。
Paper (ACM Digital Library) · PDF
Abstract
AIクローン(AIC)はコミュニケーションを拡張する可能性を持つ一方、多くは作成時点の人物像にとどまり、変化し続ける本人とのずれが生じます。改善の方法として考えられるのが、振る舞いの記述を繰り返し見直すことです。本人がクローンの対話を確認し、その振る舞いを振り返り、記述を直接編集して更新します。本研究では、科学館の専門職である科学コミュニケーター(SC)6人を対象に、5日間の実地調査でこの過程を調べました。複数のモバイル端末を通じて、来館者がAIクローンと450回以上の対話セッションを行いました。クローンの対話ログ、来館者アンケート、SCの日々のアンケートとインタビューを分析したところ、本人と来館者で評価の変化が大きく異なりました。本人によるクローンの評価は、コミュニケーションに関する10側面中9側面で有意に向上しました。一方、来館者の評価には全体として変化がなく、FDR補正後に有意な改善が見られたのは6体のうち1体だけでした。SCと来館者のアンケートは対応する項目で構成しており、両者を直接比較できます。反復的な更新は、クローンが応対する人々に与える効果よりも、本人とクローンの関係に与える効果のほうが大きいと考えられます。本人は暗黙のコミュニケーション方略を言葉にし、自分とは異なるクローンの振る舞いから学び、専門職としてのアイデンティティへの理解を深めていました。また、参加者はクローンに対して異なる立場を取り、自己省察や理想の自己の探索に用いていました。これらの観察から、多様な関係を支えるAIクローンの設計について考察します。
本人とともに変わるクローン
AIクローンは特定の人物に代わって話せるようになりましたが、多くは本人のデータから一度作られると、そのまま使われます。作成時点の姿にとどまり、本人が変わるにつれてずれが生じます。では、本人が、自分に代わってクローンが何を話したかを読み、その振る舞いを編集し続けると何が起こるのでしょうか。クローンはどう変わり、本人とクローンの関係はどう変わるのかを調べました。

日本科学未来館で、毎日振り返りと編集を行う
日本科学未来館の専門職である科学コミュニケーター6人のAIクローンを、それぞれ5日間導入しました。各クローンは、1時間のインタビューからまとめた約5,000文字の振る舞いの記述をもとに作成し、本人の声を再現した音声で話しました。来館者は10台のモバイル端末のいずれかを持って展示フロアを巡り、展示についてクローンと会話しました。合計924人が、457回のセッションに参加しました。
毎日の終わりに、科学コミュニケーターはクローンの対話を読み、「自分らしい」「違和感がある」と感じる箇所をマークし、振る舞いの記述を直接編集しました。AIが修正案を提示する機能も用意し、本人が確認したものだけを反映しました。変更はすぐに適用され、翌日の来館者は更新後のクローンと対話しました。6人は5日間で計50回の修正を行いました。

自分を映す鏡、理想の自分、まだ定まらない存在
同じ条件から始めた6人は、クローンを大きく異なるものとして捉えるようになりました。現在の自分を映す鏡、なりたい自分の投影、あるいは、まだ何なのか定まっていない存在です。

3人(SC1、SC5、SC6)は、クローンを実際の自分を映す鏡と捉え、そこに生じるずれや歪みから、自分について発見していました。ある参加者は「歪んだ鏡」と呼び、別の参加者は「普段は意識していない自分の側面」を見せる「鏡のような存在」と表現しました。この3人は、クローンを通じて自分も会話に参加していると感じており、とくにクローンが本人の経験をもとに話すときに、その感覚が強くなりました。
2人(SC2、SC3)は、クローンを現在の自分を超えた存在の投影と捉え、距離を置いていました。自分が会話に参加している感覚はほとんど、あるいはまったくなく、SC2は「ゼロ」と答えました。クローンの会話は、自分自身の会話とは別のものとして経験されていました。SC2はこの距離を利用して理想の自分を追求しました。SC3にとっては、自分をよく理解している友人や家族のような誰かに、代わりに話してもらう感覚でした。
残る1人(SC4)は、「自分にものすごく近いけれど、自分にはできないことをしてくれる」存在を求めながらも、クローンをどのような存在にしたいかを定められませんでした。それは、なりたい科学コミュニケーター像がまだ明確でないことと関係していると語りました。
5日間で関係が変わる
こうした関係は最初から固定されていたわけではなく、更新も一直線には進みませんでした。SC2の例からは、調査中に関係が捉え直される過程が見えます。SC2は当初、クローンを現在の自分に近づけようとしていました。しかし、話の長さや丁寧さを調整しても、「淡白すぎる」と「くだけすぎて不適切」の間を行き来しました。そこで、自分が欠点だと感じている特徴を、あえて振る舞いの記述に書き込みました。同僚からは「SC2らしくなってきた」と言われるようになりましたが、本人はその結果を不快に感じていました。
転機になったのは、クローンが来館者に「あなたの“best shot moment”について教えてもらえますか?」と、SC2自身なら尋ねない質問をしたことでした。SC2はこれを、自分にはできないことをクローンができたと捉えました。欠点の記述を消し、「あなたは、本人が目指す理想の[SC2の名前]です」という新たな指示を書き込みました。それ以降、クローンが自分なら言わないことを話しても、自分を誤って表しているとは感じなくなりました。「理想の自分が話しているから、違和感なく受け入れられる」と語っています。
振り返りのループが本人にもたらしたこと
どのような関係を築いたかにかかわらず、科学コミュニケーターは、振り返りのループから似た効果を得ていました。振る舞いの記述を書くことで、暗黙のコミュニケーション方略が言葉になりました。クローンの対話を読むことで、多用しているフレーズや、展示フロアでの対話に「明確な着地点がない」といった、自分自身の癖にも気づきました。自分とは異なるクローンの振る舞いは、新しいやり方を示してくれました。SC1は、自由に答えられる質問をするようクローンに指示していましたが、来館者から、質問が続くと「少し疲れる」と言われました。そこで、共感を示すだけで返答を終えてもよいことにし、「質問することは、相手に認知的な負担をかける行為だ」と捉え直しました。
評価にも同じ傾向が見られました。5日間で、本人によるクローンの評価は10側面中9側面で向上しました。一方、同じクローンに対する来館者の評価は、全体として変わらず、多重比較の補正後に改善が見られたのは6体のうち1体だけでした。論文では、ループの主な効果は、来館者に対するクローンの性能を高めること以上に、本人とクローンの関係や、本人の省察にあったと解釈しています。ただし、クローンを更新しない対照条件は設けていないため、本人の評価が上がった原因は特定できません。

クローンを通じて自分を探索する2つの方法
異なる関係からは、クローンを通じて自分を探索する2つの方法が見えてきます。論文ではpossible selves理論を参照し、現在の自己を起点とする探索(actual-anchored exploration)と、理想の自己を起点とする探索(ideal-anchored exploration)を論じています。前者は、クローンを現在の自分に近づけ、気づいていない癖や、今の自分から手が届く能力を見いだすものです。後者は、まだ身につけていない能力を持つ「理想の分身」を作るものです。どちらにもリスクがあります。現在の自分に近づけることが成長を制限する可能性もあれば、理想化したクローンが自分への不足感を生む可能性もあります。SC2は、まだ自分にはできない感情に寄り添う応対をクローンが行い、来館者が温かく反応する様子を見て、落ち着かない気持ちになっていました。
AIクローンのシステムは、2つの探索をそれぞれ異なる形で支援できます。前者には、現在の振る舞いを捉え、予想外のずれを見つけやすくすること。後者には、目指す姿を定め、そこに近づく過程を追えるようにすることが考えられます。参加者6人の研究から見いだされたパターンであり、あらゆる関係を網羅した分類ではありません。

Reference
Shutaro Aoyama, Kiyoshi Suganuma, He Jiang, and Shunichi Kasahara. 2026. Designing a Feedback Loop Between a Human and Their AI Clones for Science Communication in Museums. In Proceedings of the 8th ACM Conference on Conversational User Interfaces (CUI ’26). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 1–18. https://doi.org/10.1145/3816046.3816205
BibTeX
@inproceedings{10.1145/3816046.3816205,
author = {Aoyama, Shutaro and Suganuma, Kiyoshi and Jiang, He and Kasahara, Shunichi},
title = {Designing a Feedback Loop Between a Human and Their AI Clones for Science Communication in Museums},
booktitle = {Proceedings of the 8th ACM Conference on Conversational User Interfaces},
series = {CUI '26},
year = {2026},
pages = {1--18},
publisher = {Association for Computing Machinery},
address = {New York, NY, USA},
doi = {10.1145/3816046.3816205}
}Figures from the paper (Aoyama et al., CUI ’26), licensed under CC BY 4.0.
